陸軍本部より入電後一時間。
対降魔部隊・本部屋敷地下一階。 壁には呪府と蒸気機械が乱立され、 妙な雰囲気をかもし出していた。 正面には巨大な投影機が設置され、中央部には、 帝都の主要建造物と小川といった明確な地図が映されていた。 近隣の発電所と蒸気力学工場が降魔に拿捕されたらしく、 地上の屋敷は予備電源でしのいだものの、 ここ、地下一階は必要最低限の電力供給しかされなかった。 そのため電灯は電源がつかず、 集まった四人の顔に、 照らし出された地図の発光が顔に少し緑色のが映されていた。 この帝都の非常時が、こんな所にまで響いている。 これらの重要な説明も簡単に済ませ、 米田一基は起立して画面の正面で起立した。 米田も含め、山崎、一馬、藤枝の両三名全員とも、 陸軍から支給された軍服と敬嬢の帽子を被り、 ピリピリとした緊張感がこの部屋全体を包んでいた。 米田は愛刀の神刀滅却を片手に、 部隊員三名全員を一通り見てから口を開いた。 米田「これより、陸軍特別別派対降魔部隊、 降魔殲滅作戦の概要を説明する」 やはりというか、いつもの少し気の抜けた米田の声は、 ピシャリと気の引き締まった声に変わっていた。 米田の横に、藤枝が添い、蒸気機器の操作に当たる。 米田「今回、目標である降魔の数はおよそ千。 正確な数が出せないのは敵の霊力値がバラバラであるからだ」 その説明に、山崎が首を傾げる。 それに気付いた藤枝は機械操作の手を休めて、 チェックボード(中央部の投影機)に三十分前の 帝都における霊力反応値を映し出した。 藤枝「ご覧の通り、確認できるだけでも最大で五百、最小で一桁台の降魔もいます。 敵の形態が千差万別である以上、どれを降魔と判別できないのです」 その返答に、山崎はうなずき、一馬は厳しい表情を変えずにただ沈黙を守っていた。 米田「まあ、敵もこれを最後の決戦にしたいらしいや」 米田がそう言うと、 藤枝はうなずき、蒸気機器への操作を再開した。 チェックボードの映像が、 青色に変わり、帝都の地理が細かく表示される。 その中に、三点の黄色の点を支点とした大きな三角形が刻まれていた。 それを見て、 一馬がピクリと反応した。 一馬「米田中将、これは……」 気付いた様子の一馬に、 米田はにやりと口元で笑った。 米田「敵の数は未知数。だが、その全てが怨念といった負の霊力で構成されている以上、 我々も正の霊力で対抗しなきゃならんだろ?」 そう言いながら、米田は藤枝に目線を送った。 藤枝もコクリとうなずき、 彼女の指がキーボードのようにボタンが乱立された操作盤をしなやかに押した。 山崎「……こ、これは…」 その映像の内容を初めて見た山崎は 思わず口を開いた。 くだらない風の噂や話には聞いていたが、 実物の形を見るのはこれが初めてである。 初めてであるにも関わらず、それが本物だとわかった理由は それほどの存在感を映像越しであっても放っていたのである。 一馬「魔神器……」 一馬はそれの名を呼んだ。 米田「そう、今回の作戦では、これら魔神器の応用による、 敵の迎撃及び殲滅を行うッ!」 米田のしゃがれた声は、怒号となって 辺りを包む。 藤枝はキッと起立し、 山崎は目の前に現れた力の根源に、 目を輝かせた。 しかし、一馬だけはその厳しい表情を崩す事は無い。 米田は高々と作戦概要を告げた。 米田「三種の魔神器をそれぞれ蒸気電算機によって算出された位置に置き、 最も使用者の霊力が増大される位置にて霊力の渦を放出、これによって 降魔のみの殲滅が可能となる」 しっかりと、綿密に組みこまれた作戦を 暗記しきっている米田は次々と作戦内容を続けていく。 それに合わせて藤枝の指先も動き、 映像がパッパッと変化していった。 それは三種の魔神器、剣・玉・鏡のそれぞれを映しだし、 それぞれの設置個所の映像を映し出していった。 一気に喋ったにも関わらず、米田は喉を枯らすことなく しゃがれた声で続けた。 米田「それぞれの担当だが、山崎・藤枝の両二名による玉・鏡の設置後、 真宮寺の援護のもと、俺が魔神器の剣を用いて殲滅する」 この台詞の最後に、藤枝の指は止まり、 米田の背後の投影機は帝都の地図映像で静止した。 一馬「……米田中将、それは…」 一馬は身を乗り出し、 米田に食い言ったが、米田はわかっていたかのように 首を左右に振った。 そして作戦内容を話している時の厳しい顔が突然 優しくなり、一馬と米田は向かい合った。 米田「ま、危険だが…これも年功序列だ。社会の基本だろ?」 一馬の表情が緩まない。 小さく溜め息をつく米田は、またキッと眉を寄せて 皆の前に振りかえった。 米田「出動開始時刻は一時間後の午前十一時。 それまでに細かい疑問などは俺、もしくはあやめ君のほうに頼む」 藤枝がうなずく。 そして、米田は続けた。 米田「一同解散ッ!!」 指令はそう言ったものの、 その後、すぐにその場を立ち去る者はいなかった。 指令である米田と質問を待つ藤枝はともかく、 山崎は今だに魔神器の映像を見ているし、 一馬はまだ納得していないらしい。 今から一時間後には あの千を超える降魔の渦の中に飛びこまなくてはならないというのに、 四人とも動揺していた。 結束はバラバラになりつつある。 それを冷静に見る米田。 帽子を深々と被り、この三人の表情を見続ける米田は 考えていた。 陸軍対降魔部隊の総司令として、 この三人の命を一手に預かるものとして、 この厳しい現実に立ち向かわなければならない。 目指すは一騎当千の魔神器の法。 守るべきは帝都。 戦うべきは 帝都に封じられし怨念の結晶、 人畜非道の限りを尽くす霊体魔獣…… 『 降魔 』である。 |