先日、大量発生した魔獣達の処理も終わり、
荒れた街も復興の兆しを見せ始めていた頃。

陸軍対降魔部隊は次なる任務のために
ありとあらゆる呪術のテクノロジーを集めて躍起になっていた。

当時、この行為を
愚かしい事だと一部の関係者はさげすんでいたが、
この調査が後々、霊子水晶の発見に繋がったのである。
その調査の最たる人物は
対降魔部隊所属、山崎真之介大佐であった。

山崎は戦闘待機中、降魔と正式に名付けられた魔獣への
対抗策の捜索に奔騰していた。

常々、書斎にこもり、
彼なりの理論の元で対抗兵器開発にいそしんでいたのである。

それが科学者である彼なりの戦い方だった。

山崎真之介…後に、一馬と同じく降魔部隊の犠牲となる者である。


────…………………

山崎が書斎にこもってから二時間後。
先日の言葉通り、藤枝あやめは上層部に戦況を報告し、
対降魔部隊の本拠地に戻ってきた。
米田に報告するためである。
彼女は上と部隊を繋ぐパイプ役をになっていた。

藤枝「上層部の方から…連絡がありました」

そう礼儀正しく、
藤枝は背筋を伸ばして大きな机を前に座る米田に伝えた。

米田「…へえ、やっと動き始めたか」

悪いクセで、不敵にそう言う米田。
しかし、藤枝は首を縦には振らなかった。

藤枝「いえ、そうではないようです」

その言葉に、首をかしげる米田にはわからない。
藤枝は続けて口を開いた。

藤枝「柴田長官は今回の銀座襲撃を…もみ消す方向だと…」

彼女は言いずらそうに、顔を背けながらに米田に伝えた。

それに対して眼を見開いて、血気盛んに怒号したのは
他でもない米田である。
彼は歯を食いしばって、机に拳を打ち据えた。

米田「なんだとッ!?あれ程の戦闘すら、闇に葬ろうってのか?
   死傷者合わせて30万人だぞ!!」

静かな午後の昼下がり、
鳥もさえずる日差しの空、彼の叫びが響いた。

それも当然である。
陸軍上層部は、混乱を避けるために『降魔』の存在を
発表することを控えているのだが、
これほどの被害ではすでに民衆にも危機意識を持たせなくてはならない。
そして、それがやがて
帝都防衛に繋がるはず。

上層部の動きの鈍さにはさすがに
平穏を保ってきた米田も怒りをあらわにしてしまった。

藤枝は眉を寄せて、眼を細める。
とても悲しい事を彼女は自分の口から相手に報告しなくてはならない。

藤枝「……自然災害の一端として、今回の事を処理する意向です
   賢人機関も同調しています」

米田はここで怒ってもしかたないと、
鼻から息を噴出す事でそれを静めて腕を組んだ。

米田「まったく…烏合の集がよう…」

彼のぼやきは今日も続く。
回転式の椅子でクルリとまわり、
光の差しこむ窓に向かって米田は見上げる。

米田「このままじゃ…30万人が浮かばれねえゼ……」

彼もまた、戦闘待機の時はこうして時代の中で奮闘していた。
今考えれば愚かしい事だが、
上層部は降魔に対しては降魔部隊を置くことで、
その対抗策を終えたと考えていたのだ。
それほど、上層部には
厳しい現場が伝わっていなかったのである。


────…………………

藤枝あやめが本拠地に到着する、少し前、
まだ、米田の怒号の声が響かない頃の一馬の一室。

一馬「…………」

一応、対降魔部隊の面々には各自に部屋が用意された。
微々たる精神の安定が霊力向上に繋がると考えられてと理由づけられていたが、
実際は行動パターンの監視と盗聴のためだった。
絶大な力を持つ対降魔部隊の面々は『降魔』と等しく、
着目されていたのである。
これも陸軍としての仕事だと米田は皆に伝えたが、
山崎・藤枝の両二名は最後まで反対し、
真宮寺一馬は沈黙を守った。
後々、あの二人の部屋に取りつけられたセンサーが取り除かれたか
どうかはわからないが、現在も一馬の部屋には紫外線センサーが
作動している。

一馬は一人、自室にこもり、手紙に筆を下ろしていた。

内容は、仙台に残してきた妻とたった一人の娘に向けてである。

こうして、ニ週間に一度、手紙を返してよこすのが、
彼の非戦闘態勢時の日課だった。

一馬「………さくら…」

それが娘の名前だった。

おかっぱ頭の、清楚な顔立ちがとても若菜に似ていた娘。
最後まで対降魔部隊に所属する事を悩ませた存在である。
あの時、若菜が後押ししてくれなければ、
今も尚仙台で戦況を思いくすぶっていたかもしれない。

妻には感謝している。
だから、一馬は集中して降魔と戦う事ができた。