「さくらさん」
 自分の名前を呼ばれて、さくらは廊下の真ん中で立ち止まった。
「あ――かすみさん?」
 かすみは小走りにさくらに近づき、
「ちょっと、お話があるんですけど、よろしいですか?」
「え、ええ。じゃあ、あたしの部屋で……」
 かすみがさくらを呼び止めたのは、ちょうどさくらの部屋の前だった。
「はい。それでは、おじゃまします」
 そう言って、二人はさくらの部屋へと入っていった。

「とりあえず、その辺に座ってください。今、お茶か何か入れますから……」
 言われて床に正座するかすみ。
 さくらの部屋はきれいに整理されており、壁に掛けられた絵や窓のカーテンが、年頃の女の子らしさを醸し出している。
「そんな、お構いなく」
「いいえ、せっかく来ていただいたんですから、お茶ぐらい飲んでいってください」
「では、お言葉に甘えて……」
 かすみは出された緑茶に少し口を付けると、まじめな顔でさくらに言った。
「さくらさん、単刀直入に聞きますけど……」
「はい、なんでしょう?」
「さくらさん……あなた、大神さんのこと、好きでしょ?」
 がっしゃぁぁぁぁあああんっっっ!!
「きゃあっ!? だいじょうぶですか、さくらさん?」
 派手に頭から床に突っ伏して、拍子にお茶を盛大にこぼしたさくらに、かすみは立ち上がって声をかける。
「ごめんなさい。こんなに派手な 反応 するとは思いもしなかったので……」
「か、かすみさん……突然何を……」
 なんとか体勢を取り直し、かすみに問いかけるさくら。
 かすみは腰を下ろすと両の手のひらを胸の前で組み、祈るようなのポーズをとってから口を開いた。
「私、この一月の間、さくらさんを見てて思ったんです。だってさくらさん、いつも大神さんのことばかり見ているんですもの」
「……そ、そうでした?」
 雑巾でお茶をこぼしたところを拭きながら、さくらは尋ねた。
「ええ。それでおせっかいかもしれないですけど、私、さくらさんの恋をお手伝いしようと思ったんです」
「お手伝い――ですか……?」
「はい。そうです」
 にっこり笑って言うかすみ。
「でも、何であたしを……?」
「あの、それは、その……何か、ほっとけないというか……さくらさんには絶対大神さんとうまくいってほしいというか……」
 何故か言いよどむかすみを見て何かを感じ取ったのか、さくらはかすみの手を取り、
「ありがとうございます、かすみさん。確かにあたし、大神さんのことが好きなのかもしれません」
「さくらさん……」
「でも大神さんって、みんなに優しいし……あたしの事だけ見てほしいなんて、無理ですよね……」
「大丈夫ですよ、さくらさん」
 さくらの手をしっかりと握りかえし、かすみは言った。
「確かに大神さんは誰に対しても優しいですけど、それは愛情というものとは違うものです。さくらさんが大神さんに愛情を求めれば、大神さんはきっと返してくれるはずです。まずはアタックあるのみですよ!!」
「は、はあ……」
 いつになく力強く言うかすみに、やや気圧されながらこくこくうなずくさくら。
「だから決してあきらめないで、がんばってくださいね。応援してますから」
「はい。ありがとうございます」
 言ってぺこりとお辞儀をするさくら。
「じゃ、私仕事に戻りますから。お茶、ごちそうさまでした」
「いえ、何もおかまいしなくて……」
 再びお辞儀をするさくらに向かってほほえみながら、かすみは部屋をあとにした。
「かすみさん……そうよね。あたしから大神さんにアピールしなきゃね」
 そう言うと、さくらは湯飲み茶碗を片づけ始めた。