「勝利のポーズ……決めっ!」
 帝都タワーを背景に、花組の五人はいつものようにポーズを決めた。
 戦闘が終わったあと、彼女らはこのように全員で集合し、めいめいのポーズを取るのだ。
 この全員が同じ方向を向きポーズを決めている様は、はたから見ると奇妙に見えるかもしれない。
 しかしこの『勝利のポーズ』もしっかりとした意味があってやっているものなのである。

「『勝利のポーズ』、かぁ……」
 一枚の写真を見ながら、その女性はつぶやいた。
 窓越しに部屋に入り込む光が、そのくせのない長い髪を照らしだしていた。
 写真には満開の桜を背景に、帝撃・花組の戦闘服を着た五人の男女が写っている。
 先月、上野公園での黒之巣会との戦闘の際に写されたものである。
 実はあの『勝利のポーズ』は、帝国華撃団・月組記録管理局の隊員によって写真撮影されているのである。
 月組は敵情視察、情報支援の任務を主とする部署であり、記録管理局はその名の通り、帝撃による戦闘及び戦後処理等の記録、管理を行っている。『勝利のポーズ』は、全員無事に任務を完了したという証であり、重要な意味を持っているのである。
 普段、これらの記録は表にはでない。帝国華撃団自体が表にでないのだから、当たり前ではあるが。
 では、この女性は何故花組の記録写真を見ることができるのか――!?
 彼女が今いるところに目を移してみよう。
 両脇に並ぶガラス戸付きの書棚。背後の窓にある緑色のカーテンが、一見殺風景とも見えるこの部屋を彩っている。
 どうやらどこかの事務所のようだ。
 そして中央にある二つ並んだ木製の事務机の上には、『受付』と書かれたプレートが置かれていた。
 その事務机の主こそが、今写真を見ている女性である。
 ということは、この女性はこの事務所の事務員という事になる。
 彼女は写真に写っている桜色の戦闘服をまとった少女――真宮寺さくらに目をやった。
 そこに写っている彼女は、とてもうれしそうに笑っていた。
 戦闘に無事勝利したから――はたしてそれだけであろうか?
 写真を見ていたその女性は、さくらの表情にもっと何か違うものを感じていた。
 同じ女性だけが感じ取ることのできる気持ち――それは恋心。
 そう言えば先月、大神が花組の隊長としてここに赴任してきたときから、さくらの態度は微妙に変化していた。特に大神の前では。
(もしかしたらさくらさん、大神さんのことを……)
 さくらも着任してきてから、まだ日は浅い。彼女もそんなにさくらについて詳しいわけではないが――
 そんなことを考えていると、
『かすみさん。花組メンバー、たった今無事帰還しました』
 スピーカーからもう一人の事務員――榊原由里の声が聞こえてきた。
「よし。迎えにいかなきゃ」
 写真を机の引き出しにしまってから、藤井かすみは事務局をあとにした。