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太正八年─────────
二月

全てを話し終えた米田は小さく溜め息をついてから付け加えた。

米田「後に一馬の亡骸を探しましたが見つかりませんでした…」

それは若菜も知る事実。
若菜はうなずき、黙って傘を持ちなおす。

米田「そして対降魔部隊は解散、『降魔戦争』は事実上の終結を迎えたわけです」

悔しそうに、米田は言った。
若菜はつらそうに顔を背け、米田も目を帽子のツバで隠す。

雪が止み始めていた。
二人がこうして話し初めてから十分くらい経っただろうか。
二人に疲れた様子は無い。

ただ、ひどく哀しげではあった。

米田「あ、そうだ」

米田は何かを思い出したように声をあげ、
懐からシワシワの茶封筒を取り出す。

若菜からはそれが何なのか判らなかった。

米田は茶封筒の裏表を見て、
ある文字を確認してから薫にそれを差し出した。

若菜の目が止まる。

その茶封筒の左端には実筆で『真宮寺一馬』と書かれていた。
これはあの時、一馬本人から託された手紙である。
涙が込み上げてくる若菜に、
優しく差し出す米田は口を開く

米田「コイツを…娘さんと見てください…
   俺が言うよりもさくらは素直に受け止めてくれるハズです」

米田から手紙を受け取った若菜は、
その茶封筒を胸に抱きしめ、湧き上がった感情を抑えきれずにいた。

うっすらと涙を流し、
ああ…と声を上げてしゃがみこむ。

その姿を米田は帽子を深々と被って見なかった。

若菜「ありがとうございます…ッ!
   私は……夫の死に際すら見れませんでしたから…」

そう言って、若菜は思い切り泣いた。

夫の死をしっかりと受け止め、
今まで溜めていた悲しみを払うように声をあげて泣いた。

若菜の言葉に、米田はペコリと頭を下げる。

本当に辛い戦争だった。
多くの犠牲を払い、掴んだ平和。
その清算をすることなく帝都の復興に取りかかる上層部に
代わり、米田は頭を下げ続けた。

思い出されるは対降魔部隊のあの二人。
かけがえの無い仲間だった。

取り返しがつかないという思いを抱き、米田は遥か彼方の真宮寺家の屋敷を見つめる。

そして帝都の未来を憂いた。

あれ程の怨念を抱える帝都。
それを守ろうとしている自分達。

全ては未来のためだった。


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米田が戦友の墓前で、
若菜との話を終えて戻ってきた頃。
藤枝は料理を作って待っていた。

真宮寺家の屋敷。

奥ゆかしい造りの、この建造物は子供が遊ぶには広すぎる。

少女が一人、茶の間のテーブルに寄りかかり、だらしなく寝ていた。
可愛さ残る少女の寝姿。
淡い桜色の着物を着た少女。

台所から一定のリズムを刻む、包丁の音が聞こえてくる。

すがすがしい情景。

台所で丁寧に包丁を振るう藤枝。
あの頃から成長するためと綺麗で長かった髪を短くまとめた。

少女「……お父しゃま…」

藤枝は振返る。

少女は夢心地で父に会っているらしかった。

藤枝は一瞬、一馬が戻ってきたのかと思ったが、
そんな自分を少し笑う。

藤枝は料理の手を止め、
辺りを見渡す。
すると、そこにはあの時受け取った一馬の軍服の上着が飾られていた。

少し、あの頃を思い出す藤枝。
しかし、それほど怯えるものでもない。
あの軍服はこの帝都を守った英雄の服なのだから。

藤枝はその軍服を手に取ると、
それを寝入る少女の肩にかけた。

あの時、不安を拭い去るかのように温かい軍服を被せてくれた、
真宮寺一馬大佐と同じように。

すると、少女の顔がさらに安らかになった。
本当に幸せそうで、そして平和である。

それを見つめ、
藤枝はクスクスと笑うと、台所へと戻っていく。

また一人残された少女は、
すやすやと温かい中ですこやかに眠っていた。
それは平和であり、
また、真宮寺一馬がたった一人の娘にしてやれる最後だったのである。



:エンディング
    staff credit

    キャスト    

    米田一基  池田 勝  
    真宮寺一馬 野沢 那智
    藤枝あやめ 折笠 愛
    山崎真之介 家中 拡
    真宮寺若菜 池田昌子
        
    真宮寺さくら 横山智佐
    
    設定協力  SEGA『サクラ大戦』

    製作 多喜総感
       『サクラ大戦外伝・対降魔部隊』製作委員会