太正八年──────
二月


真宮寺家の屋敷は広い。
由緒正しき、霊験荒たかな家柄の真宮寺家の屋敷はだだっ広く、
そして人気が少なかった。

庭の獅子落としが、コツンと響き、
近くの小川がせせらぐ。
シンシンと積もる雪は人の吐息を白く濁し、
空を白く染め上げた。

自然あふるる悠久の土地。
その外れに、真宮寺家の者が人生の果てに等しく入る場所がある。

真宮寺家の者以外は足を踏み入る事を禁じられていると云われる、
霊場の集結地・真宮寺家の墓。
鎌倉式に作られ、雪に囲まれた墓に今日は参拝者が来ていた。

日本人にしては珍しい栗毛を結び、
淡い桜色の着物を着こんだ彼女はしゃがみこんでいた。
瞳を閉じて、頭を墓前に向ける彼女。

彼女の名は真宮寺若菜。
この墓の主、真宮寺一馬の最愛の伴侶だった。

若菜「………」

静かに、ただ静かに仏に礼儀を尽くす彼女は
夫の死を哀しく見据えていた。
それがもう、2年くらいになるだろうか。

男「………」

その背中に、その男は近づいた。
軍服を重ねた礼服の彼もどうやら彼の死を思い、この地を訪れたらしい。

少し半開きの瞳が彼女を捕らえたらしく、
男の足取りが止まる。
それに呼応して表情が曇ったが、
それでも彼は再び足を進めた。

カチャリと腰に携えた二本の刀が鳴る。

まるで、戦友の死に反応するかのように。

彼の名は米田一基。
陸軍所属の中将にして、真宮寺一馬の死を見届けた数少ない戦友である。

この時点ではまだ帝国華撃団構想は片鱗すら見せず、
山崎真之介(彼もまた戦友)によって発案された霊子甲冑に着目している
程度の進行具合だった。

米田「今年も…雪が降りましたね」

男の口調はどこか独特で、軍人らしいというよりかは
江戸っ子のそれに近い。

若菜「あの人は雪が好きでしたから…」

米田「違ぇねえ…」

深々と米田は言葉をもらす。

米田は帽子のツバを掴むと、
若菜の横にしゃがみ、帽子を胸の位置に置いた。
気軽い彼もまた墓前を見つめた。

それとすれ違いに、若菜は立ち上がる。

若菜「…ごめんなさい
  夫が死んだことを…まだ娘には伝えて…」

言葉を詰まらせる。
その表情は何時の間にか
苦悶の表情で、言葉を詰らせていた。

彼女と一馬の間には娘が一人いる。

雪が安物の靴に染みこみ始めた米田は、
あえて若菜の顔を見ないまま、口を開いた。

米田「仕方がないですよ…
   まだ…話さなくてもいいんじゃないですかねぇ」

そう言って、彼女をなだめる彼の脳裏に、
あの頃が蘇る。

帝都に魔獣が現れて、
対抗策もないままに戦わなくてはならなかったあの頃を。
かけがえのない犠牲を孕んだ、我ら対降魔部隊の戦いを。


:タイトルコール
          サクラ大戦 外伝
          『対降魔部隊』