胸のうちの想い



 今日も今日とて平和な日々。
 常に闇にひそむ魔の脅威に怯えながらも、一時の平和を謳歌していた。
 帝国華撃団。
 彼女たちの活躍は、人々に平和と安心をもたらしていた。
 だがそんな中にも、単に喧噪渦巻く場所があった。
 そこは――

「ちょっとカンナさん。あなたはどうしていつもそうガサツなんですの! 少尉が困っているじゃありませんの!」
「へっ、おめぇみてぇなわがまま女に言われたかねえや! いっつも迷惑かけてんのはお前の方じゃねぇか!!」
「な、なんですってぇ! 今のは聞き捨てなりませんわ!」
 うららかな陽の光が射し込む帝劇のサロンに、毎度おなじみの怒声がこだまする。
 言うまでもないだろうが、すみれとカンナの日常的な口喧嘩である。
 もはや原因は分からないが、二人の間に大神がいるところを見ると、どうやら大神がらみのことらしい。
「もういい加減にしいや二人とも。そんな事でいがみあっても、何にもならへんやんか」
「そーだよ。アイリス、けんかはきらいだよ」
 窓辺でトランプに興じていた紅蘭とアイリスが、うかつにも二人の喧嘩に首を突っ込んだ。
「そんなことですって! 紅蘭、あなただっていつもいつも発明品を爆発させて、迷惑さではカンナさんと同じですわ!!」
「なんやて!? ウチはそんなしょっちゅう爆発させてへんで。“たまーに”爆発してしまうだけやないか」
「そーだよ。すみれ、ちょっといいすぎだよ」
「あーらアイリス。あなたも同じ事ですわよ。『お兄ちゃんお兄ちゃん』って少尉の周りをウロチョロウロチョロ……あなたももう12歳なんですから一人で出来ることは一人でやったらどうなんですの!!」
「だってー、お兄ちゃんはアイリスの恋人だからいいんだもーん。そうだよね、お兄ちゃん?」
「え、えっ!? いやそれは……」
 突然話を降られた大神はしどろもどろになって答える。
「んまーこのガキンチョが! どさくさにまぎれてなんて事言うんですの!!」
「みんないい加減にしなさい。隊長が困っているでしょ」
「そうでーす。ま、優柔不断な少尉さんも悪いですけどねー」
 マリアと織姫が登場したことで、ようやく事態はおさまるかと思われた。が、しかし。
「――そうですわね。ではこの際ですから、少尉にはっきりとおっしゃって頂きましょう。この中の誰を選ぶのかを!」
「いいっ!? ち、ちょっと待てすみれくん! 誰を選ぶかなんて……」
 このすみれの一言が、事態をより悪い方へといかせてしまった。
「そうやな。せっかくやし、この際きっぱり言ってもらいまひょか、大神はん!」
 先ほどのすみれの言葉がまだ頭にきているのか、紅蘭がやけくそ気味に叫んだ。 「もちろんアイリスだよねー、お兄ちゃん」
 自信満々にアイリスが言う。
「へっ、自分の言ったこと後悔するんじゃねぇぞ、すみれ! 隊長はな、てめぇみてぇなヘビ女なんて絶対に選びっこしねえよ!!」
 再びケンカ腰にカンナが言った。
「あーもう! まーた始まりました。ちょっとレニ、あなたも何か言うでーす」
 部屋の隅で事態を静観していたレニを織姫がうながす。
 だがレニは少しはにかみながら、
「ボクも……隊長に聞いてみたい」
と、ぽつりと言っただけであった。
「ちょっとレニ、あなたまで何言ってるですかー!? ……えーいもういいでーす! わたしも参加しまーす!! 少尉さん、ずばっと言っちゃってくださーい!」
「織姫にレニまで……ああもう、何でこうなってしまうのかしら……」
 マリアは思わず頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。こうなってしまったら、いかにマリアとてこの事態をおさめることはできないのだ。
 しかし当の大神はというと、花組の面々7人に囲まれ、八方ふさがり、まさに絶体絶命のピンチにたたされていた。
 おや? 花組は「7人」であったろうか?
 そう、まだこの場にいない隊員がいる。
 こういった場には真っ先に出てきてもおかしくないその隊員は――
「ふぅ、すみません。舞台の掃除に時間かかっちゃって」
 そう言いながらサロンのドアをくぐってきたのは、いわずと知れた真宮寺さくらであった。
 しかし、皆でワイワイ騒いでいる花組の面々はさくらが入ってきたことに全く気がついていない。唯一さくらに気づいたのは、輪の真ん中で途方に暮れていた大神ただ一人だけであった。
「あ、さくらく……」
 大神はさくらに声をかけようとした。が、さくらは、
「あたし、知りません!!」
 一言そう言うと、すたすたとサロンから出ていってしまったのであった。