町は、破壊に包まれていた。
 突如現れた黒之巣会の魔操機兵――《脇侍》は、日本刀を得物に次々と建物を破壊していく。
 とある民家からおこった火はみるみるうちに町中に広がっていった。
 このまま、浅草は壊滅してしまうのか――!?
「そこまでよ!!」
「ギギ?」
 町中に響きわたる力強き少女の声に、無人の脇侍たちは破壊の手を休める。
 瞬間!
 ぐがごぉぉおぉぉぉぉっんっっ!!
 爆音を轟かせ、一体の脇侍が爆発、四散する!
 そして、辻角から現れる五体の人型蒸気。
 しかしそれは、ただの人型蒸気ではない。
 建物の陰に避難した男が叫ぶ。
「あれは――帝国華撃団!!」
 その声に応えるかのごとく、五体の人型蒸気――いや、霊子甲冑はポーズを取りながら声高らかに名乗りをあげる!
『帝国華撃団、参上!!』
「あたしたちが来たからには、あなたたちの好きにはさせない!!」
「わたくしたちの力、とくとお見せしますわ!!」
「ウチをなめたら、あかんでー!」
「一体も逃しはしない。覚悟しなさい、黒之巣会!!」
「みんな、敵は少ない。一気に叩くぞ!!」
『了解!!』
 大神の号令に続き、霊子甲冑《光武》は脇侍へと向かっていった。

 脇侍は全部で四体いた。
 うち一体は先程マリア機と紅蘭機の遠距離攻撃によって倒れたため、残るは三体のみである。
 先頭を切って、さくらの《光武》が脇侍へと斬りかかる!
「えいっ!!」
 しかし、脇侍は自分の刀でさくら機の一撃を受け止めると、そのまま力を入れてさくら機を押し返す。
 バランスを失ったさくら機は数歩たたらを踏むが、何とか体勢を立て直し、再び斬り結ぼうとする。
 しかしさくらより早く、脇侍の刀がさくら機の頭上めがけて振り下ろされる!!
「なんのぉっ!」
 さくら機は素早く太刀で一撃を流し、その反動で脇侍の横へと入り込み、
「たあっ!!」
 流した体勢のままの太刀をそのまま脇侍の脇腹へ深々と突き刺す!
「さくらくん、危ないっ!」
「えっ?」
 突然かけられた大神の言葉に反応し、そちらを振り向いた途端。
 ごあぁぁぁぁぁぁっっ!!
「きゃああっ!!」
 さくら機がしとめた脇侍に流れ弾が当たり爆発、その爆風でさくら機は数メートル吹き飛ばされた。
「さくらくん、大丈夫か!?」
 大神の心配そうな声がさくらの耳に届く。
「は、はい……大丈夫です」
 何とか笑顔で応えるさくらであった。

 ごがあああぁぁぁぁああん……
 ……ず……ずん……
 遠くで爆音が響き、衝撃で部屋が揺れた。
 天井からぶら下がっている裸電球が、数回点滅を繰り返す。
「――随分派手に暴れてるみたいだな、黒之巣会は」
 右手にコップをおさめたまま、ごろつきの兄貴分はつぶやいた。
「……まあ、奴らが派手に暴れてくれるおかげで、こちらもやりやすくはなっているのだがな……」
 男がコップの麦酒を飲みほしたとき、見張りに行っていたごろつきAとBが部屋に戻ってきた。
「兄貴、とうとうでてきましたぜ、帝国華撃団」
「!?」
 ごろつきBの言葉に、おもわず反応するかすみ。
 しかしごろつき三人はそれに気づかず、話を進めていた。
「なんか、どんどんこっちに向かってきてますぜ。向こうの方はほとんど壊されちまったし、火もこっちの方にまわってきてやす。早いとこずらかっちまわねぇと、やっかいなことになるんじゃ……」
「そうですよ。もしこの部屋がみつかっちまったら、ぜったいあやしまれますぜ。元々ここは空き家だし、両手縛られてる女はいるし……」
「――だが、この女を連れて、どこまで逃げられると思う」
「…………」
 ごろつきCに言われておもわず絶句するAとB。
「た、たしかにそうだが、この女をおいてっちまうと、あっしらのことがばれちまいますぜ」
「勿論、この女をここに残してはおかない。生きたままでは、な」
『――――!!』
 冷静な口調で言ったその言葉に、かすみとごろつきA、Bの三人は同時に息をのんだ。
「あ、兄貴、それって……この女を殺っちまうってことですかい!?」
「そうだ」
「い、いけませんよ、兄貴!! いくらなんでも、殺しちまったら……」
「そ、そうだよな。第一、今殺しちまったら、身代金請求なくなっちまうじゃないですか」
「だからといって、ここで白状させて連絡して、なんて時間はもうない」
「それは……」
「そして、つれていくこともまた無理。なら、口を封じるのが最良だと思うが?」
「そいつはそうですが……」
「でも、もったいねえよな。こんな上玉、めったにお目にかかれねえぜ」
「……若い女などいくらでもいる。今は、無事に逃げ出すことだけを考えろ」
『……へぇ』
 返事ともためいきともつかない応えをするごろつきAとB。
 一方、捕まっているかすみは冷静に事態を見守っていたわけではない。
(ちょ、ちょっと、なんでそういうふうになるの!?)
 突然の事態に頭の中がぐちゃぐちゃになりながらも、かろうじて残った理性がこの危機脱出のプランを練る。
 しかし、やはりあせっているためか、なかなか良案は出てこない。
 もっとも、落ち着いていたとしても、そう簡単に抜け出すことはできないだろうが。
(もうっ! 三流悪役のくせして、そんなこと簡単に決めないでよっ!)
 しょうもないことを考えるかすみ。どうやらかなり混乱しているらしい。
 その間にも、ごろつき三人は準備を整えていく。
 ごろつきAとBがロープ、そしてCが出刃包丁を持った。
「――いくぞ」
「……お、おう」
「…………」
 兄貴分の冷静な号令に、震える声で応えるごろつきA。
 ごろつきBは声を出さず、つばを飲みこむ音だけが聞こえた。
 二人とも全身がふるえている。今まで人を殺したことなどないのだろう。  AとBがゆっくりとかすみに近づいていく。
「い、いや……助けて……」
 やっとの事で声を出すかすみ。しかし、彼女の助けに応えるものは、いない。
 近づいてくる二人の後ろに立つ兄貴分の顔が見えた。
 冷たい。ひたすら冷たい目だ。
 その目がいきなり、大きく見開いた。
 瞬間、かすみの全身を拘束していた呪縛が一気に解放された!!
「いやあああああああああああああああああああっっっ!!」

「ほいっ!」
 ひゅうううううううう……
 どがあぁぁぁぁぁあん!!
 紅蘭機の放った飛行爆弾が、最後に残った脇侍にとどめを刺した。
「やったでー!」
「よし、よくやったぞ、みんな!!」
 戦闘終了を確認し、大神は全員に呼びかけた。
「そんな、大神さんがいてくれたおかげです」
「まあ、どこぞのだれかさんは、豪快に吹っ飛ばされてましたけどねぇ」
「なんですってぇ!!」
「ま、まあまあ、二人とも……」
 喧嘩モードに入ったさくらとすみれを、なんとかなだめる大神。
「――戦後処理は、風組がやってくれるでしょう」
「ほな、いつものアレ、いこか!!」
 紅蘭の言葉に続いてそれぞれ《光武》から降り、集合する。
「じゃ、せーの」
『勝利のポーズ……』
 その時だった。
 ――いやああああああああああああああああああああああああああっっっ!!
『――――!?』
 突如響きわたる悲鳴に、花組隊員たちに緊張が走った。
「――何だ!? 今の悲鳴は!」
「この建物からです!」
 さくらの声に、全員の視線が悲鳴のした方にある、木造二階建ての家に集中する。
「いってみましょう!!」
「よし!!」
「異議なしや!」
 言うやいなや、さくらと紅蘭、そして大神の三人は走り出していた。
「――ちょ、ちょっとお待ちになって!?」
「すみれ!! ぼんやりしてないでいくわよ!」
「……わかっていますわ」
 マリアとすみれもあとに続いて駆け出した。