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帝都東京市の文化の発信基地・銀座。その中核をなすのが大帝国劇場である。
普段は帝国歌劇団の華やかな舞台を見るために、多くの人がこの劇場に詰めよせる。
しかしこの劇場こそが、実は帝国華撃団の本部なのである。
そのため、大帝国劇場で働いている従業員、そして舞台に立つ役者までもが、帝国華撃団のメンバーであった。
この大帝国劇場の事務員として働く藤井かすみも、帝国華撃団・風組に所属している。月組の隊員はそのほとんどが普段は帝劇の従業員として勤務しており、劇場内においては事務局が記録や写真の保管場所となっている。だから、かすみがそれらの記録を見ることができるのだ。
かすみは支配人室の横にある階段から、劇場の地下へと降りていった。
花組の主力兵器、霊子甲冑《光武》の格納庫は地下二階にある。
地下特有のひんやりとした空気が、かすみの頬に心地よくあたる。
階段を降りると、先ほど館内放送でかすみを呼び出した由里も、花組を迎えるべく格納庫の方へと向かっているのが見えた。
「由里」
かすみの声に、由里は立ち止まり、振り向いていった。
「あ、かすみさん。今回もみなさん大勝利だったんですって」
「そう、それはよかったわ」
二人は並んで歩き出す。
「ほんと、すごいですよねー。特に大神さんが加わってからは、もう向かうところ敵なし!って感じですよー」
「ええ」
「それにさくらさんも、この前の時から今まで以上に張り切っちゃってて。今日なんか飛び道具持ってる敵に向かって走っていって、あっという間に切り倒しちゃったんですって」
「由里、あなたずいぶん情報が早いわね」
「そりゃあ、情報は早さがイノチですから」
「何新聞記者みたいな事言ってるの。どうせ、うわさ話のためでしょ?」
「えへへ、わかります?」
そんなことを話しながら、二人は格納庫へと到着した。
すでに帝国華撃団総司令長官、米田一基と花組のメンバー、アイリス(彼女の《光武》はまだ配備されていないため、今回は出撃していなかった)の二人が、《光武》から降りてきた勝者達を讃えていた。
「おっ、アイリス、迎えにきたんかいな。どやった、ウチの戦いぶりは?」
「うん、紅蘭とっても強かったよ」
「ま、あのぐらいの敵なら、ちょちょいのちょーいや」
「ほんと、紅蘭初めてにしては良くやったわ。《光武》の操縦なんて私たちよりはるかに上手よ」
「そらそーやで、マリアはん。だてに機械に強いわけやないんやで」
「でも、はつめいはよく失敗してるよねー」
「……なんかゆうたか、アイリス?」
にこやかな笑みを浮かべつつも、アイリスの頭を力を込めてなでる紅蘭。
「う、ううんううん。アイリス、なんにも言ってないよ」
笑顔をひきつらせ、ぶんぶか頭を左右に振るアイリス。
それを見て「何をやってるのかしらね」と、マリアが小さく微笑んだ。
少し離れたところでは、米田が大神に話しかけていた。
「おう、大神。よくやった」
「はい、米田長官」
「まだ二度目の実戦だが、ずいぶんいい動きしてるみてえじゃねえか。士官学校首席卒業は、伊達じゃねえな」
「いえ、自分一人ではなにもできません。みんなとの協力があってこそ、この結果がうまれたのだと思います」
「そうですわ。この神崎すみれがいたからこその勝利ですわ、オッホホホホ」
横からすみれが口を挟んだ。
「ねぇ、少尉。そうですわよね?」
そのまま大神にしなだれかかる。
「お、おいすみれくん。ちょっと……」
「すみれさん、なにやってるんですか!?」
後ろから怒気の含んだ声が聞こえた。
振り向くと、そこには顔をふくらましたさくらが。
(あ、やばい……)
大神は昨晩、あやめとのやりとりを見られたあとのさくらを思いだし、背筋に寒いものを感じた。
「いや、あの、さくらくん……これは……」
いそぎいいわけをする大神に、なおもすみれがよりかかる。
大神の右腕にピッタリとくっついたすみれは、
「さくらさん、うらやましく思うのは当然ですけど、わたくしと少尉は強い絆で結ばれているのですわ。あなたの入り込む余地などなくってよ」
「す、すみれくん、強い絆って……」
「あーら少尉、さきほどわたくしをかばってくださったではありませんか」
そうなのだ。芝公園での戦いの際、《足軽》によって窮地に立たされたすみれの《光武》を救うため、大神は霊子トンネルを使って自らの霊子エネルギー体(エクトプラズム)をすみれ機の近くに転送し、敵からの攻撃からすみれ機を〈かば〉ったのだ。
「あ、あのときは囲まれてて、すみれくん、ピンチだったから……」
「そうですよ。それに、かばってもらった事が強い絆なら、あたしにだってあります!」
すみれに負けじとさくらも大神の左腕をとった。
普段のさくらと比べると、とても大胆な行為だ。
「そうですよね、大神さん?」
「え……えーと……」
「もう、少尉ったら!! はっきりしてくださいまし」
「あ〜っ、さくらもすみれもズル〜〜いっ、アイリスもお兄ちゃんとうで組むの〜っ!!」
「なんやなんや、みんなしてズルいで。うちもまぜてーな」
「まったく、しょうがない子たちねぇ……」
アイリス、紅蘭、マリアも大神たちの方へと集まっていく。
「はあ、ほんとにこの人達、帝都を救ったのかしら……?」
一連の光景を見ていた由里は、思わずそうつぶやいた。
「ふふふっ。でも、このチームワークこそが、この人たちの強さじゃないかしら」
「そんなもんですかねぇ……」
由里とそんな会話をしながらも、かすみの目はずっとさくらに向けられていた。
さくらの態度を見て、かすみは自らの中にあった確信を強めていく。
そして、新たな気持ちも――
(よしっ、私、さくらさんの恋を応援するわ!!)
密かに決意し、小さくガッツポーズをするかすみを見て、
「どうしたんです、かすみさん……大丈夫?」
思わずそう尋ねる由里だった。